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「柔軟な指先が切り開くロボットの新時代」

KiQ Robotics株式会社 代表取締役 滝本 隆 氏
 × 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏


鮫島:貴社は産業用ロボットのハンド、特に指先部分を開発・製造する会社と伺っています。

滝本:近年、製造業の自動化ニーズは多様化していますが、人手に頼る作業がまだ多く、特にバックヤードでは、形状が異なる何千、何万という物品のピッキング作業が行われています。一方で、ロボット本体を購入しても、センサーやハンドの部分は一品一様で作られているのが現状です。


鮫島:その課題に対して、御社はどのようなアプローチをとっているのでしょうか。

滝本:そこで私たちは「掴む」という機能に特化し、人の指のような柔軟性を持つハンドを開発しました。通常のゴム素材ではなく、固めの樹脂素材を3Dプリントで特殊なメッシュ構造にすることで、耐久性を保ちながら柔軟な変形を実現しています。

鮫島:トヨタ自動車での採用実績があると伺いました。

滝本:はい。トヨタ自動車では通い箱のパレタイズ、デパレタイズ作業で、当社の指先を採用いただいています。サプライチェーン上、様々な形状の箱を扱う必要がありますが、当社の柔軟な指先であれば、形状が異なっても確実に把持できます。現在40個ほど導入いただいており、1セット10万円程度で販売しています。

鮫島:大企業との取引で知財面での懸念はありませんでしたか?

滝本:周囲からは「共同開発すると技術を取られてしまう」という警告を多く受けました。しかし、トヨタは非常に紳士的で、私たちの指先技術を製品として購入する形で進めていただきました。実際に知財担当者とも話をしましたが、当社からアイデアを出して製品を提供するという形で、共同研究ではなく製品購入という枠組みを明確にしていただきました。

鮫島:トヨタとの取引実績は、他社との商談でも強みになりますね。今後の技術開発についてはどのような構想をお持ちですか?

滝本:現在、指先技術だけでなく、その性能を最大限に引き出す制御システムの開発も進めています。指先単体の特許では模倣される可能性もありますが、それを組み込んだシステム全体でれば、より広い特許が取得できると思います。

鮫島:滝本さんは北九州で事業を展開されていますが、地域における知財への意識についてどのように感じていらっしゃいますか?

滝本:北九州の企業は知財に対するリテラシーが非常に高いと感じています。これには工学系の大学や高専が多いという地域性が影響していると考えています。私自身、高専教員時代に知財教育やアイデアコンテストの普及に携わった経験があり、知財教育を学生たちに広める活動もしてきました。

鮫島:今後の事業展開についてはどのようにお考えですか?

滝本:3Dプリント技術の発展により、将来的には指先部分の製造自体がコモディティ化する可能性も考えています。現状では高性能な3Dプリンターが高価なため、当社での製造が現実的ですが、3Dプリンターの技術進展によってユーザーが製造状況は変わるでしょう。そのため、制御システムの利用に応じた課金モデルや、指先の設計ノウハウを自動化するサービスなど、新たな付加価値の創出を検討しています。実際に、愛知県の製造委託先企業とも、新しい製造技術の開発について協議を始めています。 

鮫島:ニッチな領域で、既存の商習慣を活用しながら、独自の技術で差別化を図るというのは、スタートアップとして非常に良い戦略だと思います。

滝本:ありがとうございます。ただ、産業用ロボット分野は採用までの時間が長く、スピード感を出すのに苦労している面もあります。一方で、トヨタでの採用実績は大きな強みになっています。この実績を基に、さらなる展開を目指していきたいと考えています。

―「THE INDEPENDENTS」2024年12月号 P.14より


※冊子掲載時点での情報です
 
 

 
  <話し手>
KiQ Robotics株式会社 代表取締役 滝本 隆 氏
(→ イベント登壇情報
 
生年月日:1981年3月30日
北九州工業高等専門学校出身。
自動化システム、無人航空機などの研究に従事。専門はシステム制御工学。
2008年知的クラスター創生事業研究員時代に、ロボットピッキング、画像処理に関する特許を4件取得。これを用いた使用後注射薬自動処理システムを小倉記念病院に導入。
2012年、研究成果活用兼業にてベンチャーを設立。足のにおいを計測する犬型ロボット「はなちゃん」を開発し、日本だけでなく海外のメディアにも数多く取り上げられている。
2018年には、無人航空機の本を執筆し、ドローン教習の教本として使用されている。
現在までに20 社との共同研究、50 を超える共同製品開発を実施。
 
KiQ Robotics株式会社
設 立:2019年4月25日
所在地:福岡県北九州市小倉北区浅野1-1-1ビエラ小倉1階DISCOVERY
資本金:113,000千円
事業内容:産業用ロボットシステムの研究開発、ロボットハンドツール「ラティス構造柔軟指」の開発・販売


   <聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

 

KiQ Robotics株式会社

住所
福岡県北九州市小倉北区浅野1-1-1ビエラ小倉1階DISCOVERY
代表者
代表取締役 滝本 隆
設立
2019年4月25日
資本金
11,300万円(2024年5月現在)
従業員数
2名(2024年5月現在)
事業内容
産業用ロボットに関する機器の研究・開発・販売
URL
https://kiq-robotics.co.jp/
情報更新日
2024年11月6日

※上記は、情報更新日時点での情報です。